秋田市南通の隠れた名物
JR秋田駅から南へ約1キロ、住宅地にひっそりと佇む「広栄堂」。和風の外観は一般住宅と見紛うほど控えめで、知る人ぞ訪れる隠れ家的存在だ。昭和6年(1931年)創業の老舗和菓子店が、今では季節限定のかき氷で名を馳せている。
秋田の夏を彩る一杯
5月下旬から9月末までの季節営業。軒先の「氷」の旗と窓の「生グソ始めました」の貼り紙が、夏の訪れを告げる。この「生グソ」こそが秋田の夏の風物詩であり、県外からも多くの人が足を運ぶ理由だ。
「生グソあります」の文字。初めて見る人の反応は想像に難くない。
昭和の面影を感じさせる空間
店内は広々とした空間が広がる。和菓子屋の名残を感じさせる内装は、黒を基調としたテーブルと椅子で食堂風に改装。甘味処の雰囲気も漂う。ゆったりとした座席配置で、くつろぎの時間を約束してくれる。約60種類のかき氷メニューの中で、特に人気なのが「生グソ」だ。
炎天下、列に並ぶ人々の姿からも、この「生グソ」への期待が伝わってくる。
この「生グソ」を目的に県外からも多くの客が訪れる。夏の暑い日差しの中で、列に並ぶ人たちは汗をかきながらも「生グソ」を待ち望んでいるのだ。注文をしてしばらくすると「広栄堂」の人気ナンバーワンメニューの「生グソ」が運ばれてくる。
生グソの謎を解く
「生グソ」とは「生グレープフルーツソフト」の略称。その名の通り、ガラスの器底にグレープフルーツの果肉を敷き、その上にたっぷりのかき氷とソフトクリームをトッピングしたものだ。50年以上の歴史を持つこの名物は、全国的にも知る人ぞ知る存在となっている。
素朴ながら奥深い味わい
シンプルな見た目とは裏腹に、その味わいは複雑だ。雪のようにふわふわのかき氷、甘い自家製シロップ、濃厚なソフトクリームが絶妙なハーモニーを奏でる。
底に敷かれたみずみずしいグレープフルーツの果肉が、爽やかな酸味とほのかな苦みで全体を引き締める。
かき氷とシロップを混ぜ合わせると、絶妙な味わいが口の中に広がる。たっぷりのかき氷、グレープフルーツの複雑な風味、自家製シロップの優しい甘さ、そして濃厚なソフトクリーム。これらが織りなす味のバランスは、まさに中毒性のあるおいしさだ。
秋田の風土に根付く味
秋田には「生グソ」以外にも、「ババヘラ」アイスクリームなど、個性的な名前のスイーツが存在する。これらは秋田の風土や人々の感性に根ざしたネーミングセンスの表れかもしれない。広栄堂という店名も「広治が栄えるように」との願いが込められている。戦時中の苦難を乗り越え、1948年(昭和23年)に夏場の営業を補完する形でかき氷の提供を始めたという歴史も、この店の魅力を語る上で欠かせない。
まとめ
「生グソ」は単なるスイーツではなく、秋田の文化、歴史、そして人々の暮らしに密着した存在だ。ユニークな名前だけでなく、素朴ながら深みのある味わいこそが、その人気の真髄である。秋田を訪れた際は、ぜひこの味を体験してほしい。それは単なる氷菓子ではなく、秋田の夏そのものを味わう体験となるだろう。
店舗情報詳細
店舗名:広栄堂
住所:秋田県秋田市南通みその町6-21
電話番号:018-832-5736
営業時間:10時~17時30分頃 ※営業期間は5月下旬~9月下旬頃(天候により変動あり)
定休日:月曜日(祝日の場合は火曜休業)
駐車場:7台
投稿者プロフィール
- 年間に食べるアイスクリームの数は1,000種類以上。2010年コンビニアイスに特化したレビューサイト「コンビニアイスマニア」を開設し、アイス評論家として活動を始める。2014年には『一般社団法人 日本アイスマニア協会』代表理事に就任。アイスクリームのスペシャリストとして TBS『マツコの知らない世界』をはじめ多くのメディアに出演。冬季のアイス市場を盛り上げるための「冬アイスの日」を制定するほか、全国から厳選したアイスが集結するイベント・アイスクリーム万博「あいぱく®」などを主宰。著書に『日本懐かしアイス大全』、『日本アイスクロニクル』、『ご当地アイス大全』(辰巳出版)等がある。
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