アイスマン福留です。アイスリーム万博「あいぱく」や「房蔵總本舗」で大人気の山梨県の桃農園「ピーチ専科ヤマシタ」に伺いインタビューをしてきました。(※取材は2020年8月のものです)
ピーチ専科ヤマシタとの出会いは2019年。アイス好きの仲間と山梨を訪れた際に立ち寄ってカフェ(ペレットカフェ)で食べたピーチ専科ヤマシタのフルーツジェラートのおいしさに一同が感動&ひとめぼれ。このおいしさを、もっと多くのアイス好きに知ってもらいたい!という思いで、その年(2019年)に私たちが主宰するアイスクリーム万博「あいぱく®」(銀座三越)にご出店いただきました。
今まで県外のイベントにはほとんど出店していなかったピーチ専科ヤマシタの桃ジェラートは多くのメディアでも取り上げられ、「山梨の桃農家が本気でつくったこだわりの絶品桃ジェラートを一度は口にしてみたい」という人がイベントに押しかけて連日長蛇の列…。毎日数量を制限しないと提供が間に合わないほど大人気に!
そんな、アイス好き&桃好きの人々を魅了するピーチ専科ヤマシタについて、山梨に訪問して農業生産法人(有)ピーチ専科ヤマシタ 代表の山下一公さんに今回お話を伺ってきました。
山梨に訪問インタビュー
アイスマン:「あいぱく®」でも大変お世話になりました!また、本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきありがとうございます。お会いできて光栄です。
山下:こちらこそ。今回はわざわざ山梨までお越しいただきありがとうございます。本日はよろしくお願いします。
アイスマン:ピーチ専科ヤマシタさんのジェラートはどのフレーバーを食べてもおいしい。はじめて食べた時は本当に感動しました。今回はジェラートに対するこだわりや、ここ「ラ・ペスカ」誕生の経緯など色々お話を聞かせいただければ嬉しいです。まずは、山下さんが家業を継がれる経緯からお聞かせていただきますか。
大学農場の教員職として勤めるはずだった
山下:まずこの農園は、先代の父と親子2代の経験と知恵を生かした農園です。引き継いだのは私が25歳の時。通っていた大学が農学部で卒業後は大学農場の教員職として勤める予定でした。しかし父親の策略?!に見事にハマってしまい…実家に戻り農業を継ぐ事になったんです。
父親の策略とは
アイスマン:え!元々は教員職に就くはずだったんですか。父親の策略・・・というと?
山下:身体の調子が悪いと聞かされ慌てて帰ったのですが、父親はピンピンしていました。笑
アイスマン:ああ、ドラマなどでありそうなお話!なんとしても継いでほしかったんでしょうね。笑
山下:親父は元々身体も細くて丈夫ではなかったものの、当時まだ52歳ですからね。全然元気ですよ。完全にやられました。笑
アイスマン:若い頃はとくに親の年齢って気にしてないですもんね。実際自分が歳を重ね、あらためて振り返ってみると「あー、あの頃の親父って、まだ○○歳だったのか…」って感じですよね。
家業を継ぐための条件を提案
山下:そうそう。笑 ただね、私も(実家に)戻る時にひとつ条件を出したんです。当時、実家の農園では桃と葡萄を栽培していたのですが、私は葡萄の仕事は手がかかるので小さい頃から嫌いだったんです。笑 収穫をしてすぐに出荷できる桃に比べて葡萄は玉割れのチェックなど、とにかく手がかかるんです。そこで「ぶどうの木を全部切って桃だけにするなら戻るよ」と提案。もちろん、どうせそんな条件は呑まないだろうと高を括っていました。
アイスマン:なるほど。私は食べる専門なので農作物の種類毎の手間など今までまったく気にせず食べていました。それでお父さんはその条件を受け入れたんですか?
ぶどうの木をすべて切った
山下:食べる人にとって作り手の手間など関係ありませんから!そう。親父はこう言ったんです。「わかった。葡萄の木は切ってもいい。その代わりお前が切れ。俺が植えた木だから(愛着があるから)自分で切ることはできん。」その言葉を聞いた私は、ためらうことなく当時農園の約半分を占めていた葡萄の木をすべて切り、空いた農地に桃の木を植えました。
アイスマン:なんとも大胆…。本当の意味で“ピーチ専科”になっちゃったわけですね。笑
山下:そうなんです。現在は桃意外のフルーツも色々手掛けていますけどね。ただ、葡萄の木を切り桃を植えたことで時間ができたんです。桃の樹は植えてから3年は収穫ができませんから。
アイスマン:桃栗三年・・・っていいますもんね。ではその間、農園では何をされていたのですか?
3年間は自由気ままに行動
山下:その時期は農業には携わらず、好き勝手に行動してました。たとえば外国青年と文化交流やディスカッションをする「世界青年の船」に参加したり、あとは半導体の工場に季節社員として働きに行ったりもしました。
アイスマン:なんと!てっきりその期間は農園で引継ぎの準備をするものだとばかり思っていました。青年の船は聞いたことがあります。世界各国から集まった青年代表が船で共同生活するやつですね。半導体の工場では具体的にどのような作業をされていたんですか。
半導体工場での仕事
山下:おもに最終工程のチェックです。半導体チップに最終工程で電流を通すんですよ。うまく電流が通らないと機械の警報が鳴る。すぐに行って顕微鏡を覗いて針がしっかり当たってるかどうか、そもそもチップ自体がおかしいのかといったことをチェックする・・・まぁ、仕事的には全然おもしろくも何ともない。
(一同笑)
農業とはまったく違う経験が視野を広げてくれた
山下:でも、働くこと自体尊い事ですし、当時仲間と共に過ごした時間も楽しかった。工業高校を卒業した連中が全国から集まってきて一緒に働くんです。工場で知り合った仲間は年齢も近く、休みの日はよく皆で遊びに行ったり…楽しかったなぁ。
おそらくそのまま農業の道に入っていたら少なくても今のようなカタチにはなってなかったでしょう。外に働きに出たことで農業というものを客観的に見れるようになり、物事を多角的にとらえられるようにもなった気がします。学生から(社会人に)上がってすぐに接するのが親や同業の人達など近しい人だけだと視野も狭くなりますからね。
アイスマン:なるほど。よく理解できます。そういった経験がピーチ専科ヤマシタならではの独自農法、桃の家「Cafeラ・ペスカ」の運営など、常識にとらわれない発想にも繋がっているんですね。
山下:直接的ではないにしろ、あの頃の経験は少なからず今に活きているとは思います。
アイスマン:では、次にピーチ専科ヤマシタならではのこだわりについてお話を伺いたいのですが、今まで桃農園を経営されてきて大きな分岐点(ターニングポイント)となったのはいつ頃でしょうか。
山下:うーん、色々ありますが強いて言えば法人化をしたことでしょうか。元々家族経営だった農園を1998年に「農業生産法人(有)ピーチ専科ヤマシタ」として法人化しました。そこで大口の取引もずいぶん増えましたね。
アイスマン:なるほど、山梨には家業として農園を営んでいるところが多いですもんね。法人化することで大口の取引が劇的に増えた。ピーチ専科ヤマシタさんの一番のこだわりはなんでしょうか。
ピーチ専科ヤマシタのこだわり
山下:うーん、こだわりといいますか、まず私たちは一番に「食べる人」を思い浮かべて果物を育てているということですかね。果物のおいしさはもちろんですが消費者の皆様に安心して食べていただきたいという気持ちが強いです。そのため化学肥料を抑え、土を傷めない農法で果実にも地球にもやさしい肥料を選ぶように心掛けています。除草剤等も一切使用していません。
アイスマン:果物のおいしさはもちろんのこと栽培する環境にもこだわっているんですね。経緯やこだわりを知らずに、今まで食べていました。
山下:いえ、食べておいしいと思ってもらえればそれが一番です。あとは土づくりにもこだわっていて、草生栽培をおこなっているんです。
草生栽培とは
草生栽培とは、あえて農地に生えた雑草を除草せず、そのまま生やしておくんです。土が草に覆われることによって土の温度上昇を抑えてくれる。手間はかかりますが一定期間でその雑草を丁寧に刈り取り土に還して分解させることで有機物の補給効果にもなるんです。その他、土壌の浸食防止など利点も多い。果物が病気になりにくい強い土壌がつくられるんですよね。
アイスマン:おいしい果物を育てるための強い土壌づくり。本当においしいものをつくるには環境から整備していく必要があるんですね。
山下:それだけではありません。たとえばほら。今ちょうど木を切っているじゃないですか。今の時期に枝を切ることで、来年の実の出来が変わるんです。一般的な農家は枝の葉っぱが落ちる冬の時期に枝を切るんですけど、うちの場合はちょうど今の時期(8月)に切ります。そうすることで日光がしっかり当たり栄養を吸収し、来年の農作物の出来を良くしてくれる。「枝を切る」という行為は同じだけど、栄養の観点でいうと来年の花実を重視すると今の時期がベスト。こうしたちょっとしたことで農作物の出来、おいしさが変わってくるんです。
アイスマン:一般的な農法とは違ったやりかたを導入するのは結構勇気がいることだと思います。長年培ってきた経験から、そうされているのですね。
山下:より良い桃をつくるために今まで数々のチャレンジをしてきました。私たちにとって農作物は心を込めて作った作品。来年の春先に桃の花がどれだけキレイに咲くか、この時期に手を入れたかどうかで決まってしまうんです。
ここで花芽形成されるため、しっかりと分析して、どのように手を入れるのかが重要。語れば尽きないほど細かいポイントがあるのですが、普段わざわざ語ることはありません。答えはシンプルで、とにかくおいしい桃ができれば、それが一番なんです。
アイスマン:桃をはじめとする果物を育てる環境としてやはり山梨は優れているのでしょうか?
フルーツ王国、山梨県の環境
山下:山梨県は果樹栽培をするには、基本的にはとても条件に恵まれた環境だと思います。肥沃な土壌、気温の寒暖差、水捌け、日照時間なども。ただ、場所によって土質は全然違います。河川敷は砂を多く含んでいますし、同じ山でも、ある場所は粘土質が多かったり、火山灰質が多かったりと。水捌けについても同じことがいえます。
優れた環境に頼りきるだけではなく、もっと重要なことは、土の性質を知り、適切な手入れをしなければならない。個々の農家が、どれだけ最適な環境をつくれるかが鍵です。桃は見た目では見わけが付かない。シンプルですが、食べてみて一番うまいか、まずいか。裏の努力がどう結びつくのか。これは経験するしかないですね。
アイスマン:なるほど。優れた環境はもちろんのこと、農家さんの弛まぬ努力もあってこそのフルーツ王国なんですね。あと社長は以前から作り手と消費者の距離を縮めたいとおっしゃっているじゃないですか。「桃の家 ラ・ペスカ」はそういう意味でつくられたものなのでしょうか。
桃の家「ラ・ペスカ」誕生のきっかけ
山下:うちは15年前くらいから産地直送の宅配をやっていました。元々は紙ベース(チラシ等)で注文する形式でやっていたんですが、ある時からパソコンやインターネットが普及し、通販が主流になってきました。しかし昔からお付き合いのあるお客様の年齢層は徐々に上がっていてパソコンを使えない人も多かったことからリアルの場所での提供を考えはじめました。
一番おいしい時期の桃を提供したい
もうひとつの理由として宅配の桃っていうのは見た目も100%キレイじゃないとクレームが来る。しかし本当においしいといわれる桃は宅配に向かないんです。何故なら、ちょっとした柔らかさでクレームになってしまうから。
一時期は通販で「ワケあり商品」として、しっかり説明を記載した上で販売したこともありましたが、やはりクレームの嵐。このやわらかくて一番おいしい時期の桃をどうしたら喜んで食べてもらえるだろうか。そういう発想で誕生したのがラ・ペスカなんです。
アイスマン:なるほど。私たちが普段食べている全国に流通している桃と、ここで食べる桃の一番の違いって何でしょうか。
市場によって求められるものが違う
山下:私たちが古くからお付き合いのある農協では、味よりも桃の「色」と「大きさ」などの見た目が求められました。味よりも”なるべく早く出せるもの” が要求されたんです。一方、宅配のお客さんが重視するのは、やはり味。これって当たり前のことなんですが、どんなに形や色が良くても味が悪かったらお客様からの良い評価は得られません。しかし実際出荷するとなると、味だけでなく見た目も大事。難しいところですよね。そう考えるとカフェでの提供がベストなんです。
お客様と直接繋がれる場所
もう一点、「ラ・ペスカ」はお客様と繋がれる場として考えました。農作業って、どちらかというと裏方の仕事。お店をつくることで自分たちが苦労して育てた果物を食べて喜んでくれるお客様とダイレクトで繋がり、生の声(感想)や笑顔を見られることが、私たちの日々のモチベーションにも繋がっています。
アイスマン:たしかに。お店が無ければ果物を出荷したその先は見えにくいですもんね。私たちも生産者ではありませんがアイスクリームのイベントをやっているので、自分たちが厳選したアイスを喜んで食べてくれている姿を見ると嬉しいので気持ちがよくわかります。実際、今カフェで働いているスタッフの皆さんは普段農作業をしている方々なんでしょうか。
お客さんの喜んだ顔を見ると幸せな気持ちになる
山下:お店のオープン当初はそうだったんですが、今は違います。人それぞれ資質が違い、得意な分野も違うんですよね。それも長年運営してみてわかったこと。
アイスマン:なるほど。山下さんご自身もお店のオペレーションよりも農業のほうに専念していらっしゃるのでしょうか。
山下:そうですね。わたしも昨年(2019年)あたりからお店のオペレーションには直接関わっていません。たまにお店をブラブラしてお客さんと話したりはしますが・・・。
店内を眺めていると、うちの看板メニューである「ピーチ・ジュエル」(桃をまるごと使ったパフェ)がテーブルに運ばれた時にお客さんが目を輝かせて「うわ~♪すご~い!」とか言って喜んでくれるんですよね。それを見ていると本当にうれしくて幸せな気持ちになります。ただ同時にちょっと悔しい気持ちにもなるんですよね。
アイスマン:お客さんは喜んでくれているのに悔しい気持ちに・・・?それは何故ですか?
山下:「クソ~おれが作ったのに・・・」って。笑
(一同爆笑)
アイスマン:今は社長としてお客さんの感動や笑顔を遠くからひっそりと眺めている感じなんですね。笑 しかしお店をオープンする際、今までカフェの運営経験は一切無かったわけですよね?新しいチャレンジに不安は無かったんですか?
不安しかなかったお店づくり
山下:もちろんありました。逆に不安しかありませんでした。笑 当時は周りに参考にするお店などもなくデザイナーさんも引き入れてプロジェクトチームをつくり、じっくりと時間をかけてお店のコンセプトづくりからはじめました。結果それが良かった。ただ漠然と「どこどこのお店が繁盛しているから」という理由で真似をしても、きっとうまくいかなかったでしょう。
アイスマン:何もわからないからこそ入念に、じっくりと時間をかけて取り組んだのですね。この頃、桃メニューを提供するカフェやレストランは県内に無かったということでしょうか?
山下:山梨中を探しても、葡萄や桃を観光園でズラリと並べて販売するくらいで、カフェ形態で果物を提供するお店は当時まったくと言っていいほどありませんでした。つまり参考やお手本にできるお店がそもそも無い。大変ではありましたが逆にそこが良かったと今では思っています。
見本が無いことが逆によかった
アイスマン:真似するものが無かったからこそ強いオリジナリティが形成された。たしかに理想とするお店(見本)があったら、どうしてもそちらに引っ張られてしまいますもんね。では、いつ頃から山梨で同じような形態のお店が増えてきたのでしょか。
山下:ちょうどうちが自社でジェラートをつくりだした頃(2014年)・・・5~6年前くらいかな?その頃から山梨でも桃や葡萄を使ったカフェが急激に増えてきましたね。
桃を使ったメニューを提供するカフェとしてパイオニア的存在
アイスマン:同じ業態が増えたということはラ・ペスカがひとつの成功事例として多くの人に認知されたということですね。ラ・ペスカの看板メニューである大人気の桃パフェ「ピーチ・ジュエル」はいつ頃から提供しているんですか?
看板商品の桃パフェ「ピーチ・ジュエル」
山下:えーとあれはね…お店をオープンして2年目だから2010年あたりからかな?桃を贅沢に使った桃農家ならではのパフェをつくりたい!と、試行錯誤しながらつくりました。
アイスマン:おおお~早い!最近桃をまるごと使ったパフェを数多く見かけますが、10年も前から提供されていたんですね。
ジェラートも原料となる桃もすべて手づくり
山下:はい。自社でジェラートをつくりだしたのが2014年あたり。大量生産できるものでもないし。こちらも最高に手間ひまをかけてつくったジェラートです。手間のかかり具合でいったら他に負けないと自負しています。笑
アイスマン:手間ひまを惜しまず丁寧につくられたこだわりのジェラート。ジェラートづくりはもちろん、その原材料となるフルーツからすべて手づくりしているところなんて滅多にないですからね!おいしくないわけがない。その価値をわかってくれる人はきっと全国にたくさんいると思います。
山下:桃ジェラートだけでも種類は豊富です。品種によってそれぞれ味も違いますので是非食べくらべてお楽しみいただけたら嬉しいです。
投稿者プロフィール
- 年間に食べるアイスクリームの数は1,000種類以上。2010年コンビニアイスに特化したレビューサイト「コンビニアイスマニア」を開設し、アイス評論家として活動を始める。2014年には『一般社団法人 日本アイスマニア協会』代表理事に就任。アイスクリームのスペシャリストとして TBS『マツコの知らない世界』をはじめ多くのメディアに出演。冬季のアイス市場を盛り上げるための「冬アイスの日」を制定するほか、全国から厳選したアイスが集結するイベント・アイスクリーム万博「あいぱく®」などを主宰。著書に『日本懐かしアイス大全』、『日本アイスクロニクル』、『ご当地アイス大全』(辰巳出版)等がある。
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