絶景と絶品が織りなす至福の時間 ー 秋田・土田牧場

土田牧場 ジャージーカントリー

アイスマン福留 ご当地アイス巡礼記

僕は最近、ご当地アイス巡りにハマっている。老舗の懐かしいアイスキャンディーから、地元の特産品を活かした創作ジェラート、さらには職人技が光る季節限定のかき氷まで。その地域ならではの味を求めて、日本全国をうろうろしている。

その中でも、ソフトクリームは特別な存在だ。クリーミーな口当たりと、その土地ならではの風味。それは単なるデザートを超えた、旅の醍醐味とも言えるものだ。

今回の目的地は、秋田県にかほ市の標高500メートルに位置する「土田牧場」。秋田市から車で約1時間30分。年間十数万人もの観光客が訪れる人気スポットだ。

土田牧場の特筆すべき点は、その広大な敷地と希少な乳牛にある。東京ドーム約32個分に相当する150ヘクタールの牧草地で、約200頭のジャージー牛を飼育している。この壮大なスケールと希少な牛種の組み合わせが、ここでしか味わえない特別なメニューを生み出す秘訣なのだろう。

ジャージー牛

ジャージー種は、国内乳牛のわずか0.8%しか存在しない希少な品種だ。イギリスのジャージー島で、「草だけでおいしい牛乳」を生産するために300年以上もの歳月をかけて改良された乳牛である。その特徴は、茶色で柔らかい毛並みと、小鹿のようにくりっとした愛らしい目元にある。一般的なホルスタイン種と比べると体が小さく乳量も少ないため、生産効率では劣るものの、その乳は高い乳脂肪率を誇る。結果として、濃厚でコクのある味わいが特徴的な牛乳を生み出す。

カーナビに導かれ山道を登っていくと、突如として視界が開けた。目の前にそびえる鳥海山、高原に立ち並ぶ風車群、はるか北に雪を抱く白神の山影。圧巻の景色に思わず息を呑む。僕の持論だが、ソフトクリームを楽しむ上で、こんな雄大な景色こそ最高の調味料となる。

駐車場に車を停めると、牧場のスピーカーからオールディーズが流れてきた。まるでタイムスリップしたかのような雰囲気に包まれる。

秋田 土田牧場

ミルクハウス

車を降り、真っ先に向かったのは直売所兼休憩所の「ミルクハウス」だ。2013年にリニューアルされたこの施設は、木の温もりあふれる落ち着いた空間が広がっている。
ウッド調の内装と暖炉がアットホームな雰囲気を醸し出し、壁には牧場自慢のジャージー牛の写真が所狭しと飾られている。まるでジャージー牛の資料館に来たかのような錯覚すら覚える、心地よい休憩所だ。

土田牧場 ミルクハウス

店内を見渡しても、スタッフの姿はどこにも見当たらない。「無人なのか?」と思いながらも、注文カウンターへ向かう。メニューに目をやると、「チーズトースト」の文字。食パンにチーズをたっぷり載せてオーブンで焼いたこのチーズトーストは、牧場の看板メニューで人気ナンバーワンなのだとか。

土田牧場 ミルクハウス

本来の目的であるソフトクリームを忘れ、「これは頼むしかない」と即決。しかし、スタッフ不在で注文できないジレンマに陥る。仕方なく、窓の外に広がる雄大な景観を眺めながら待つことに。

しばらくすると、カウンターの奥からスタッフが現れた。「ごめんなさいね。団体のお客様の対応をしていたの。ご注文は?」と声をかけられ、待ちわびた「チーズトースト」を注文。

数分後、「お待たせしました」という声とともに、出来立てのチーズトーストが運ばれてきた。牧場特製のオリジナルチーズを使った、ふわふわ&熱々のトーストだ。

土田牧場 チーズトースト

一口かじると、思わず「うまっ。」と声が漏れる。分厚くてふわふわのパンに、とろ~んと伸びるチーズ。口の中でチーズの濃厚な味わいが広がる。これぞ本場の味。いや、「本場」という表現が正しいかはさておき、都会のカフェでは絶対に味わえない至高の一品だ。牧場ならではの素材の良さと、手作りの温もりが詰まったチーズトーストに、すっかり心を奪われた。

ジャージーソフトクリーム

まずは、看板商品のジャージーソフトを注文。見た目はシンプルで、いわゆる普通の牧場ソフトだが食べてみると想像以上のおいしさだ。水分量は多く、ジャージー牛ならではのぎゅっと凝縮された濃厚でコク深い旨み。都内で食べるソフトクリームとはミルクの濃さが明らかに違う。

土田牧場 ジャージー牛乳ソフトクリーム

ジャージーカントリー

そして、お次は、「ジャージーカントリー」を注文。これは、牧場で搾った新鮮なジャージー乳で作られたヨーグルトと自家製ソフトクリームを組み合わせた逸品だ。スタッフが笑顔で手渡しながら「ごめんね。ちょっとヨーグルトを入れ過ぎちゃった」と言う。僕は心の中で「入れ過ぎてくれてありがとう…」と感謝しつつ、期待に胸を膨らませる。

土田牧場 ジャージーカントリー

スプーンを入れると、ヨーグルトとソフトクリームが絶妙に混ざり合う。一口。「おお…」思わず声が漏れる。言葉を失うほどの美味しさだ。

土田牧場 ジャージーカントリー

ヨーグルトの爽やかな酸味とソフトクリームのまろやかな甘み。そして何より、ジャージー牛乳特有の濃厚なコクが口いっぱいに広がる。これはまさに反則級の美味しさ。もう普通のソフトクリームには戻れない気がした。

ファーマーズ団子

店内を見渡すと、冷凍ケースにもうひとつ気になる商品が目に留まった。「ファーマーズ団子」という謎の商品…。なんでも、牧場のヨーグルトクリームの中に、同じく牧場の牛乳で作った白玉を入れ、冷やし固めたものらしい。

土田牧場 ファーマーズ団子

土田牧場のジャージーヨーグルトの美味しさに既に魅了されていた僕は、我慢できずにこれを購入。そもそも白玉も大好物なので、買わない選択肢などない。

解凍して食べるのが正解らしいが、待ちきれない。(フローズンヨーグルトとして食べたいという気持ちもあり)牧場の美しい風景を眺めながら30分ほど時間を置き、半解凍の状態で挑戦してみる。

シャリっとした半解凍のフローズンヨーグルトと、もちもちの白玉のコンビネーションは文句なしの美味しさ。口の中で広がる新鮮な乳製品の風味と、絶妙な食感のハーモニーに、思わず目を見開いてしまう。

土田牧場 ファーマーズ団子

アイス好きとしては、この半解凍のフローズンシャリシャリ状態は大正解。今まで食べたことのない新感覚デザートに、すっかり魅了された。うーん、恐るべし土田牧場。その創意工夫と卓越した品質に、ただただ感嘆するばかりだ。

セントバーナー舎

食事を終えた後、ミルクハウスの裏手にある「セントバーナー舎」を見学。

土田牧場 セントバーナー舎

ヤギ、ウサギ、セントバーナード、シベリアンハスキーなど、まるでミニ動物園のような空間が広がっていた。何を食べてもおいしいし、風景も抜群。そして動物ともふれあえる。一日楽しめそうだ。

セントバーナー舎

最後にもう一度、外の景色に目を向ける。目の前に広がる大パノラマ。朝は奥羽の山並みの向こうから昇る朝日、夕暮れには日本海に沈む大きな夕日が見られるという。

土田牧場

ここで数泊し、朝日を見ながらチーズトーストを食べ、夕日を見ながらまたジャージーカントリーを食べる。そんな贅沢な一日を過ごしてみたいという衝動に駆られつつ、車に乗り込みエンジンをかける。「絶対また来よう」。そう心に誓いながら山を下り始めた。今回の秋田ご当地アイス巡りの中で、間違いなく最高のお気に入りスポットとなった土田牧場。

皆さんも、絶景と絶品が織りなす至福の時間を、ぜひ体験してみてはいかがだろうか。

土田牧場

秋田県にかほ市馬場字冬師山4-6
TEL:0184-36-2348
FAX:0184-36-2333
WEB:https://tsuchida-bokujou.com/

アクセス

日本海東海道 にかほICより 車で20分
国道7号線沿い仁賀保郵便局十字路より山に向かって車で約20分
JR羽越本線 仁賀保駅より10.5km 車で20分
秋田・庄内空港から66.4km 車で約1時間30分

投稿者プロフィール

アイスマン福留
アイスマン福留アイスクリーム・スペシャリスト
年間に食べるアイスクリームの数は1,000種類以上。2010年コンビニアイスに特化したレビューサイト「コンビニアイスマニア」を開設し、アイス評論家として活動を始める。2014年には『一般社団法人 日本アイスマニア協会』代表理事に就任。アイスクリームのスペシャリストとして TBS『マツコの知らない世界』をはじめ多くのメディアに出演。冬季のアイス市場を盛り上げるための「冬アイスの日」を制定するほか、全国から厳選したアイスが集結するイベント・アイスクリーム万博「あいぱく®」などを主宰。著書に『日本懐かしアイス大全』、『日本アイスクロニクル』、『ご当地アイス大全』(辰巳出版)等がある。
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