秋田の隠れた宝石『じゃっぷぅ』—能代が紡ぐ味と記憶のバトン

道の駅ふたつい:じゃっぷぅ

能代の幻の氷菓子に会いに行く

秋の気配が漂う週末、僕は秋田へご当地アイス探索をしに向かった。新幹線の中でめぼしいお店を調べ、駅からはカーシェアで借りた車を走らせた。まず最初の目的地は秋田県能代市二ツ井。この地に古くから愛され続ける、ある氷菓を味わうために。

道の駅ふたつい:じゃっぷぅ

秋田のご当地アイスといえば、多くの人が「ババヘラ」を思い浮かべるだろう。しかし、今回のお目当ては違う。この地には「じゃっぷぅ」という、知る人ぞ知る名物氷菓が存在するのだ。

秋田の隠れた名物:じゃっぷぅとの再会

じゃっぷぅとは、いちごのシロップを凍らせ、ソフトクリーム状にしぼり出して提供される、二ツ井でしか味わえないオリジナルの氷菓だ。かき氷というよりも、やさしい食感のシャーベットを想像してもらうとよいだろう。

「道の駅ふたつい」を訪れるのは約3年ぶり。建物に入ると、「福多珈琲」というお店に「じゃっぷぅ」の文字を発見。「おお、あった!」と胸が高鳴る。同時に安堵の気持ちが押し寄せてくる。ご当地アイスは数年経つと姿を消していることもあるため、毎回ドキドキするのだ。前回訪れたときは同エリア内の別の軽食コーナーで提供されていたが、現在は「福多珈琲」に場所を移していた。福多珈琲

じゃっぷぅという独特な響きの商品名。売るための分かりやすさを潔く捨て、インパクトにフォーカスする。大手メーカーではなく、地元の小さな商店がこうした姿勢を貫くところが実に興味深い。秋田には、「ババヘラ」、「マルホンのみぞれ」、「じゃっぷぅ」、「生グソ」と、個性派の氷菓が多い。

じゃっぷぅの歴史:戦後から受け継がれる味

じゃっぷぅの歴史は古く、戦後間もない昭和初期にさかのぼる。二ツ井町にあった「豊福食堂」で販売が始まった。名前の由来は、アイスの溶けかけが「ジャブジャブ」していておいしい、というところから来ているそうだ。当時、甘味が貴重だった時代に、地元の中高生たちの憩いの場となっていた。そう、氷菓というのは本来そういう立ち位置だったのだ。今やかき氷が2千円〜3千円という価格で提供されていることを半世紀前の人たちが知ったら、さぞ驚くことだろう。

三國統也商店

三国統也商店跡地

しかし、1990年頃に店主の高齢化により店が閉まり、じゃっぷぅも姿を消してしまう。地元の人々は惜しみ、復活を望んだ。そして2002年、三國凌子さんと夫の統也さんが「今の子供たちにも食べさせたい」という一念で三國統也商店として復活させたのだ。現在は「道の駅ふたつい」が受け継ぎ、福多珈琲でその味を提供している。

三國統也商店

三国統也商店跡地

じゃっぷぅの魅力:懐かしくも新しい味わい

現在のメニューは「ソフトじゃっぷぅ」「ミルクじゃっぷぅ」「じゃっぷぅ」の3種類。元祖「豊福食堂」から続くこの3種類を、現在も忠実に当時のラインナップを再現している。一時期、他のフレーバーも存在したようだが、結局のところ「いちご」に人気が集中し、現在のメニューに落ち着いたようだ。

道の駅ふたつい:じゃっぷぅ

まず注文したのは、「ソフトじゃっぷぅ」。じゃっぷぅの上にソフトクリームが乗った、最も豪華な仕様だ。見た目は普通のいちご風味の氷菓とソフトクリームの組み合わせだが、一口食べればその特別さに気づく。じゃっぷぅは、やさしいいちご味で、昔ファーストフード店で回転していたシャーベットや、セブン-イレブンで提供されていた「スラーピー」を思わせる味と食感。素朴で懐かしさを感じさせる味わいである。

道の駅ふたつい:じゃっぷぅ

口の中でゆっくりと溶けていくいちご味の氷と、クリーミーなソフトクリームのバランスが絶妙だ。控えめな甘さのいちごシロップと、ソフトクリームの濃厚さが相性抜群。素朴な味わいに、昭和の時代にタイムトリップしたような懐かしさを覚える。

次に、じゃっぷぅに練乳を組み合わせた「ミルクじゃっぷぅ」を注文。練乳の甘さが加わり、また違った味わいを楽しむことができる。いちごシロップの甘い風味と、練乳・ソフトクリームが口の中で溶け合うおいしさは確かにクセになる。特に暑い日には格別だろう。

道の駅ふたつい:じゃっぷぅ

地域に根付く”ソウルアイス”

周りを見渡すと、家族連れや年配の方々が嬉しそうに食べている姿が目に入る。彼らにとって、これは単なるデザートではない。青春時代の思い出が、一杯のじゃっぷぅに詰まっているのだ。

秋田・二ツ井名物「じゃっぷぅ」

三國統也商店時代には、「じゃっぷぅ号」という移動販売車や、持ち帰り用のパッケージ版もあったというが、今は販売終了しているのが惜しまれる。

地元の方々にとって、じゃっぷぅは単なる氷菓子ではなく、「夏の懐かしい味」であり、まさに「ソウルアイス」なのだ。絶やしてはいけない地域の味として、事業者がバトン式で受け継いでいるところも魅力的だ。

じゃっぷぅが教えてくれる、食文化の多様性

帰り際、ふと考えた。このような地域に根ざした伝統の味を守り続けることの大切さを。そして、こうした小さな文化が日本の食の多様性を支えているのだと。地元の人々が昔ながらの味を引き継ぎ、地域文化として育てていく。その姿に心を打たれる。

秋田の静かな道を走りながら、じゃっぷぅのやさしい甘さが、まだ舌の上に残っていた。能代の皆さん、このじゃっぷぅという宝物を大切に守り、そして全国に広めていってほしい。そう願いながら、帰路についたのだった。

〒018-3102 秋田県能代市二ツ井町小繋字泉51番地
TEL 0185-74-5118 / FAX 0185-74-5174
HP:https://michinoeki-futatsui.jp/

投稿者プロフィール

アイスマン福留
アイスマン福留アイスクリーム・スペシャリスト
年間に食べるアイスクリームの数は1,000種類以上。2010年コンビニアイスに特化したレビューサイト「コンビニアイスマニア」を開設し、アイス評論家として活動を始める。2014年には『一般社団法人 日本アイスマニア協会』代表理事に就任。アイスクリームのスペシャリストとして TBS『マツコの知らない世界』をはじめ多くのメディアに出演。冬季のアイス市場を盛り上げるための「冬アイスの日」を制定するほか、全国から厳選したアイスが集結するイベント・アイスクリーム万博「あいぱく®」などを主宰。著書に『日本懐かしアイス大全』、『日本アイスクロニクル』、『ご当地アイス大全』(辰巳出版)等がある。
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